ARの歴史について
AR(拡張現実)の歴史
近年、スマートフォンアプリや産業用デバイスを通じて身近な存在となったAR(Augmented Reality:拡張現実)。現実世界にデジタル情報を重ね合わせるこの技術は、SF映画のような空想の世界から、実用的なビジネスツールへと急速な進化を遂げました。本レポートでは、1968年の黎明期から現代の5G時代に至るまでのARの歴史的変遷と、今後の展望について詳述します。
(出典:Blippar - History of Augmented Reality)
1. AR(拡張現実)とは
定義と基本概念
AR(Augmented Reality)とは、実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することで、目の前にある世界を「仮想的に拡張する」技術を指します。完全に人工的な世界に没入するVR(Virtual Reality:仮想現実)とは異なり、ARはあくまで「現実」が主体であり、そこにデジタル情報を付加価値として提供する点に特徴があります。
2. AR発展の歴史年表
ARの歴史は半世紀以上に及びます。以下に、主要な技術的ブレイクスルーと社会的普及の節目を時系列で示します。
(出典:Gerard Friel - The History of AR)
コンピュータ科学者アイバン・サザランド(Ivan Sutherland)が、世界初となるヘッドマウントディスプレイ(HMD)システムを開発しました。天井から吊り下げるほど巨大な装置であったことから「ダモクレスの剣(The Sword of Damocles)」と呼ばれましたが、これが現在のAR/VR技術の始祖とされています。
1990年、ボーイング社の研究者トム・コーディル(Tom Caudell)が、航空機の配線作業を支援するシステム開発の中で初めて「Augmented Reality(拡張現実)」という用語を使用しました。また、1999年には奈良先端科学技術大学院大学の加藤博一教授らによって、ARアプリケーション構築用ライブラリ「ARToolKit」が公開され、オープンソース化されたことで世界中の開発者がAR開発に参入するきっかけとなりました。
PC上のWebカメラを使用した初期のAR体験が登場し始めました。マーカー(特定の図形)をカメラにかざすと3Dキャラクターが現れる技術などが開発され、広告やゲーム業界での実験的な利用が進みました。
iPhoneをはじめとするスマートフォンの普及により、ARを持ち運ぶ時代が到来しました。2009年には、日本の頓智ドット(現:tab)が、位置情報(GPS)を利用して空間にタグを浮かべるiPhoneアプリ「セカイカメラ」をリリース。ARという言葉を一般層に広く認知させる社会現象となりました。
Googleが「Google Glass」を発表。一般消費者への普及にはプライバシーの懸念等で課題を残しましたが、ハンズフリーでの情報表示が可能であることから、医療、製造、物流などの産業分野でのAR活用(スマートグラス)が本格化しました。
ナイアンティック社と株式会社ポケモンがリリースしたスマートフォン向けゲーム「Pokémon GO」が世界的な大ヒットを記録。位置情報とカメラ映像を組み合わせ、現実の風景にキャラクターを出現させる体験は、ARを「誰もが当たり前に使う技術」へと押し上げました。
高速通信規格5Gの普及と、iPhone 12 Proなどに搭載されたLiDARスキャナ(空間深度測定)により、ARの精度が劇的に向上しました。現実空間の奥行きを正確に把握することで、バーチャルな物体が現実の家具の裏に隠れる(オクルージョン)といった高度な表現が可能になっています。
3. 現代のAR技術活用事例
歴史を経て進化したARは、現在エンターテインメントの枠を超え、多岐にわたる分野で社会インフラの一部となりつつあります。
(出典:Epikso - The Potential of Augmented Reality in Business)
- Eコマース・小売: 家具の試し置き(IKEA Placeなど)や、バーチャルメイクアップ機能により、購入前の体験価値を向上。
- 産業・メンテナンス: 作業員のスマートグラスにマニュアルや指示を重ねて表示し、ハンズフリーでの作業支援とミス削減を実現。
- 観光・ナビゲーション: Googleマップのライブビュー機能のように、実際の風景上に矢印を表示して道案内を行う。
4. 今後の展望
AR技術の未来は、デバイスの軽量化とAIとの融合にあります。現在はスマートフォン越しの体験が主流ですが、Apple Vision Proなどの空間コンピュータや、軽量なメガネ型ARデバイスの開発競争が激化しており、「スマホを持たずに」情報は空間に常時表示される未来(Spatial Computing)が近づいています。
また、VPS(Visual Positioning System)技術の進化により、都市全体をデジタルツイン化し、街そのものをARコンテンツ化する取り組みも進んでおり、ARは「見る」技術から、現実世界をデジタルで「書き換える」インフラへと進化を続けていくでしょう。
