Epson MOVERIOスマートグラスの進化と全貌:歴代モデルの特徴と活用方法の徹底解説

投稿日: 2026年2月1日

拡張現実(AR)の世界を牽引するエプソンのスマートグラス「MOVERIO(モベリオ)」。業務効率化からエンターテインメントまで、幅広い用途で活用されているこのデバイスは、長年にわたり進化を続けてきました。本稿では、歴代のMOVERIOシリーズの特徴を振り返りながら、最新モデルの革新的な機能と、ビジネスや日常生活における具体的な活用方法について詳しく解説していきます。

1. Epson MOVERIOとは:シースルー体験の先駆者

Epson MOVERIOシリーズは、両眼シースルー(透過)型のスマートグラスです。最大の特徴は、目の前の現実空間を見ながら、そこに重ねるようにデジタル映像を投影できる点にあります。スマートフォンやタブレットのように画面を覗き込む必要がなく、ハンズフリーで情報を取得できるため、産業、医療、博物館のガイド、そして個人の映像鑑賞まで、多岐にわたる分野で利用されています。

エプソン独自のマイクロディスプレイ技術を核とし、高画質、軽量化、そして装着感を追求し続けてきたMOVERIOの歴史は、そのままスマートグラスの実用化の歴史と言っても過言ではありません。それでは、その進化の過程をモデルごとに見ていきましょう。

Epson MOVERIO 次世代ARスマートグラス
出典: Epson newsroom - 進化し続けるMOVERIOシリーズのラインナップ

2. BT-200:アプリ開発の土台を築いた初期モデル

2014年に発売された「BT-200」は、MOVERIOシリーズの認知を一気に広めたモデルです。前世代機に比べて大幅な軽量化と小型化を実現し、眼鏡に近い装着感を目指した意欲作でした。

主な特徴

  • Android OS搭載:専用のコントローラー部分はAndroidベースで動作し、アプリ開発者が自由にアプリケーションを作成できる環境が整いました。これにより、ARアプリの実験場として多くの開発者に愛用されました。
  • 各種センサーの搭載:加速度センサー、ジャイロセンサー、地磁気センサー、GPSなどを搭載し、ユーザーの動きや位置情報に連動した映像表現が可能になりました。
  • ミラキャスト対応:Wi-Fi経由で映像をミラーリングする機能も備えており、ワイヤレスでのコンテンツ視聴が可能でした。
Epson Moverio BT-200
出典: Amazon.com - アプリ開発の礎となったBT-200

BT-200は、まだ「スマートグラス」という言葉が一般的でなかった時代に、個人開発者や企業の研究部門に導入され、ナビゲーションや作業支援といったARの基礎的なユースケースを開拓しました。やや無骨なデザインではありましたが、その機能性は多くの可能性を示唆していました。

3. BT-300:画質の革命、シリコンOLEDの採用

2016年、MOVERIOシリーズにとって大きな転換点となったのが「BT-300」の登場です。最大の変化は、ディスプレイ技術に自社開発の0.43型シリコンOLED(有機EL)を採用したことです。

画質と没入感の向上

これまでの液晶方式では、黒を表示する際もバックライトが光ってしまうため、スクリーン枠が白浮きして見えてしまい、ARとしてのリアリティが損なわれることがありました。しかし、BT-300で採用されたOLEDは自発光デバイスであるため、「黒」を「画素を消灯させる」ことで完全な黒として表現できます。これにより、映像の枠が見えなくなり、まるで映像が空中に浮かんでいるかのような高い没入感を実現しました。

Epson Moverio BT-300
出典: Professional Photographers of America - 高画質化を実現したBT-300

ドローンの操縦用モニターとしても人気を博しました。パイロットはドローンを目視しながら、同時にカメラからのFPV(一人称視点)映像を空中に重ねて確認できるため、安全かつ高度な撮影が可能となりました。軽量化も進み、長時間の使用でも負担が軽減されています。

4. BT-350:不特定多数の利用を想定した堅牢モデル

BT-300の基本性能を受け継ぎつつ、商用利用や複数人での共用を前提に設計されたのが「BT-350」です。美術館や博物館でのガイドツアー、工場見学などでの利用を想定しています。

ビジネス現場への最適化

BT-300との大きな違いは、テンプル(つる)の構造です。BT-350は可動式のテンプルを採用しており、様々な頭の大きさの人にフィットしやすくなっています。また、耐久性も向上しており、多くの人が繰り返し装着するシーンでも壊れにくい設計になっています。専用のクレードルを使用することで、複数台の一括充電や管理も容易になり、BtoB市場での導入を加速させました。

Epson Moverio BT-350
出典: eBay - 堅牢性とフィット感を向上させた商用モデルBT-350

5. BT-35E:OS非搭載による汎用性の拡大

「BT-35E」は、これまでのモデルとは異なるアプローチをとりました。それは、Android OSを搭載したコントローラーを廃止し、単なる「モニター」としての機能に特化したことです。インターフェースボックスを介して、HDMIやUSB Type-CでPC、スマートフォン、タブレット、ドローンの送信機などと直接接続します。

Epson Moverio BT-35E
出典: B&H Photo - HDMI/USB-C入力に対応したBT-35E

この仕様変更により、既存のPCシステムや医療機器の映像をそのままスマートグラスに表示することが容易になりました。バッテリー寿命やOSのアップデートサイクルを気にする必要がなくなり、純粋なウェアラブルディスプレイとして、歯科治療中の患者への映像提供や、エンジニアのサブモニター用途など、活用の幅が大きく広がりました。

6. BT-40 / BT-40S:高解像度化とプライベートシアターへの進化

最新世代の一つである「BT-40」シリーズは、再び画質と装着感を大きく進化させました。解像度はFull HD(1080p)となり、視野角も広くなりました。これにより、まるで60インチ以上の大画面が目の前にあるような感覚を得られます。

BT-40(USB Type-C接続モデル)

USB Type-C(DisplayPort Alternate Mode対応)を持つスマートフォンやPCにケーブル一本で接続し、電力供給と映像伝送を行います。非常にシンプルで、移動中の新幹線や飛行機の中で映画を楽しんだり、カフェでPCのセカンドスクリーンとして作業効率を上げたりする「パーソナルユース」に最適です。

Epson Moverio BT-40
出典: Unbound XR - シンプルな接続と高画質を両立したBT-40

BT-40S(インテリジェントコントローラーセットモデル)

BT-40のグラス部分に、Android搭載の専用コントローラーをセットにしたモデルです。スマートフォンを使わずに単体でアプリを動作させたい場合や、業務専用アプリを入れて運用したい法人に適しています。

デザインもより洗練され、サングラスに近い形状となりました。シェードを取り外せば周囲がよく見え、シェードをつければ映像への没入感が高まる仕組みも健在です。

7. BT-45C / BT-45CS:産業現場に特化したヘルメット対応モデル

最新の産業用フラッグシップモデルが「BT-45C」および「BT-45CS」です。これらは、工場や建設現場などの過酷な環境での使用を強く意識して開発されました。

Epson Moverio BT-45C
出典: Epson - ヘルメット装着に対応した産業用モデルBT-45C

現場の声から生まれた堅牢性

BT-45シリーズの最大の特徴は、ヘルメットへの装着が容易であること、そして米国軍用規格(MIL規格)に準拠した高い耐久性を持っていることです。頭部全体で支えるヘッドセット型に近いデザインを採用しており、作業中のズレを防ぎます。

また、カメラ機能も強化されており、中央に配置された高性能カメラはオートフォーカスに対応。遠隔支援ソリューションにおいて、作業者の視点をクリアに遠隔地の指示者へ送信することができます。これにより、熟練工が現場に行かずに若手を指導したり、トラブルシューティングを行ったりすることが可能になります。

8. 活用事例:MOVERIOが変える未来の現場と生活

これまで見てきた各モデルの特徴を踏まえ、具体的な活用シーンを整理します。MOVERIOは単なるガジェットではなく、課題解決のソリューションとして機能しています。

(1) 遠隔作業支援(産業・メンテナンス)

BT-45C/CSなどのモデルを活用し、現場の作業員と本部のエキスパートを映像と音声で繋ぎます。本部の指示者は、作業員の視界にマニュアルや指示図面をARで重ねて表示させることができます。「ここを見てください」という指示が、言葉だけでなく視覚的に伝わるため、ミスが激減し、作業効率が飛躍的に向上します。

(2) エンターテインメント・観光(博物館・劇場)

BT-350やBT-40を活用し、博物館の展示物を見ると自動的に解説が浮かび上がる「スマートガイド」としての利用が進んでいます。また、劇場では、舞台を見ながら字幕を表示させるバリアフリー字幕メガネとしても導入されており、聴覚障がいを持つ方や外国人観光客へのサービス向上に貢献しています。

(3) 医療・歯科

歯科治療中、患者は長時間口を開けて天井を見続ける必要があります。BT-35Eなどを装着してもらい、映画やリラックス映像を流すことで、患者の不安や苦痛を和らげる取り組みが行われています。また、術者が生体モニターやCT画像を手元(視界の中)に表示させながら手術を行うといった高度な利用も研究されています。

(4) 個人のプライベートシアター

BT-40は、個人のエンターテインメント体験を変えます。狭い自宅でも、出張先のホテルでも、かけた瞬間に大画面が現れます。周囲の様子を確認しながら視聴できるため、VRゴーグルのような閉塞感がなく、リラックスしてコンテンツを楽しむことができます。

9. スマートグラスの未来とMOVERIOの役割

スマートグラス市場は、Apple Vision ProやMeta QuestなどのMR/VRヘッドセットの登場により、再び大きな注目を集めています。しかし、それらの多くが「没入感(VR)」や「カメラ越しの現実(ビデオシースルー)」を重視しているのに対し、MOVERIOは一貫して「光学シースルー」にこだわっています。

肉眼で現実を見ながら、必要な情報だけをさりげなく重ねる。このアプローチは、現実世界での作業を妨げないため、ビジネス現場や日常の補助ツールとして非常に親和性が高いものです。将来的には、AIとの連携により、見たものの情報を即座に検索したり、リアルタイム翻訳を表示したりといった機能がさらに洗練されていくでしょう。

10. 結論:用途に合わせて選ぶ、最適なMOVERIO

Epson MOVERIOシリーズは、初期の実験的なモデルから、洗練された個人向けモデル、そして過酷な現場に耐える産業用モデルへと進化を遂げました。

モデル主な特徴推奨用途
BT-300OLED初採用、軽量ドローン操縦、アプリ開発
BT-350可動テンプル、堅牢設計美術館ガイド、商用レンタル
BT-35Eモニター機能特化医療、既存PCシステムのサブモニター
BT-40高画質、USB-C接続動画鑑賞、モバイルワーク
BT-45C/CSヘルメット対応、MIL規格工場、建設現場、遠隔支援

「何を実現したいか」によって、選ぶべきMOVERIOは異なります。個人的な映像鑑賞ならBT-40、工場での作業支援ならBT-45C、ドローンのモニターならBT-300やBT-35Eといったように、それぞれのニーズに応じたラインナップが用意されています。

スマートグラスはもはや未来の道具ではありません。MOVERIOは、私たちの仕事や生活を、今まさに拡張し続けているのです。ぜひ、目的に合った一台を手に取り、新しい視界を体験してみてください。

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