VRヘッドセット vs. ARグラス 営業現場で使うならどちらが正解か

投稿日: 2026年2月9日

はじめに:営業活動における「体験」の重要性

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は営業の現場にも押し寄せています。従来のカタログやパワーポイント、動画による説明だけでは、顧客に製品やサービスの真価を伝えることが難しくなってきています。特に、物理的な移動が制限されたり、遠隔地への営業活動が増えたりする中で、「いかにしてリアルに近い、あるいはリアルを超えた体験を顧客に提供できるか」が成約率を左右する重要な鍵となっています。

そこで注目を集めているのが、XR(クロスリアリティ)技術です。中でも「VR(仮想現実)」と「AR(拡張現実)」は、営業プレゼンテーションや商談の質を劇的に向上させるツールとして導入が進んでいます。しかし、いざ導入を検討する段階になると、「VRヘッドセットとARグラス、自社の営業にはどちらが適しているのか?」という疑問に直面する担当者様も少なくありません。

本記事では、VRとARそれぞれの特性を深く掘り下げ、具体的な営業シーンにおける活用事例やメリット・デメリットを比較しながら、皆様のビジネスに最適な選択をするための指針を提示します。

VR headset used in a business meeting
出典:Vection Technologies - ビジネスミーティングでのVR活用イメージ

1. VR(仮想現実)ヘッドセット:没入感で「別世界」へ連れていく

VRとは何か?

VR(Virtual Reality)は、ヘッドセットを装着することで視界を完全に覆い、コンピュータグラフィックスで構築された360度の仮想空間にユーザーを没入させる技術です。現実世界を遮断し、あたかも別の場所にいるかのような感覚(プレゼンス)を作り出すことができます。

営業におけるVRの強み

営業現場において、VRの最大の武器は「圧倒的な没入感」と「物理的制約の排除」です。

  • 空間・距離の超越: 顧客を瞬時に工場見学へ連れて行ったり、未完成の建設予定地を歩かせたりすることができます。
  • 集中力の最大化: 視界を覆うため、周囲の雑音やスマホの通知などに気を取られることなく、目の前のコンテンツだけに集中してもらえます。
  • 非現実の体験: 巨大な機械の内部に入り込んだり、微細な化学反応の様子を目の前で観察したりといった、現実では不可能な視点を提供できます。

代表的な活用シーン

VRが最も威力を発揮するのは、不動産、建設、重工業、観光などの分野です。例えば、マンションのモデルルーム内覧では、まだ建設されていない部屋をVR空間で再現し、壁紙の色を変えたり、家具を配置したりするシミュレーションが可能です。また、製造業では、巨大な産業機械を会議室に持ち込むことは不可能ですが、VRであれば実寸大で目の前に出現させ、動作確認まで行えます。

Sales demonstration using VR
出典:Augray - 顧客へのVR製品デモンストレーションの様子

2. AR(拡張現実)グラス:現実世界に情報を「重ね合わせる」

ARとは何か?

AR(Augmented Reality)は、現実の風景にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術です。VRとは異なり、ユーザーは現実世界を見ながら、そこに浮き出るテキスト、画像、3Dモデルなどを同時に視認します。スマートフォンやタブレット越しに見るタイプが一般的ですが、近年ではメガネ型の「ARグラス(スマートグラス)」の実用化が進んでいます。

営業におけるARの強み

ARの真価は「現実の強化」と「コミュニケーションの維持」にあります。

  • 現実との融合: 目の前にある物理的な製品に、内部構造やスペック情報、使用イメージなどを重ねて表示できます。
  • 対話のしやすさ: VRのように視界を遮断しないため、営業担当者の顔や周囲の状況を見ながら会話を続けることができます。これは商談の空気感を読む上で非常に重要です。
  • 手軽さ・軽量性: 最近のARグラスは軽量化が進んでおり、装着への心理的ハードルが低く、サングラス感覚で利用できる製品も増えています。

代表的な活用シーン

ARは、実際に目の前に製品がある場合や、現場での説明が必要なシーンで輝きます。例えば、自動車のショールームで実車を見ながら、ARグラスを通してボディカラーを変更して見せたり、エンジンルームを透視して内部構造を解説したりすることができます。また、医療機器の営業では、実際の機器を操作しながら、ARグラス上に操作ガイドや血流のイメージを表示させることで、より深い理解を促すことができます。

Industrial grade AR glasses
出典:Nsflow - 産業用途でのARグラス活用イメージ

3. 徹底比較:VRヘッドセット vs. ARグラス

それぞれの特徴を理解したところで、営業現場での運用という観点から両者を比較してみましょう。

比較項目VRヘッドセットARグラス
体験の質完全没入型。
現実を忘れて仮想空間に集中させる。
現実拡張型。
現実空間に情報を付加する。
商材との相性不動産、建設(未完成物件)、観光地、大型重機、プラントなど、「持ち運べないもの」「まだないもの」に最適。自動車、家電、医療機器、家具、アパレルなど、「実物が目の前にあるもの」「配置シミュレーション」に最適。
コミュニケーション顧客は外界から遮断されるため、営業担当者の表情は見えない。声掛けのタイミングに配慮が必要。アイコンタクトを取りながら説明が可能。従来の商談スタイルに近い形で導入できる。
機器の携帯性比較的大きくかさばる。スタンドアローン型は改善されているが、荷物にはなる。軽量でコンパクトなものが多い。ポケットに入れて持ち運べる製品もある。
導入コストハードウェアは比較的安価なものからあるが、高品質な3D空間コンテンツの制作費が高くなりがち。ハードウェア価格はピンキリ。コンテンツ制作は既存の3Dデータなどを流用しやすい場合がある。
「酔い」のリスクVR酔い(乗り物酔いに似た症状)が発生する可能性がある。VRに比べると酔いは発生しにくい。

4. 活用事例から見る成功パターン

【VR事例】ハウスメーカーによる「仮想モデルハウス」体験

ある大手ハウスメーカーでは、地方の営業所にVRヘッドセットを配備しました。これにより、都心の旗艦モデルハウスや、多様なラインナップの住宅内部を、地方にいながらにして顧客に体験してもらうことが可能になりました。「リビングの広さはこれくらいです」と言葉で説明するよりも、実際にVR空間で歩き回ってもらうことで、顧客の納得感が段違いに向上。成約までの期間短縮に成功しています。

【AR事例】家具・インテリア販売での「試し置き」

インテリア業界では、AR技術が標準になりつつあります。顧客の自宅訪問時にARグラス(またはタブレット)を使用し、購入検討中のソファやテーブルを実際の部屋に「試し置き」します。サイズ感や色味が部屋の雰囲気に合うかをその場で確認できるため、「買ってみたけど部屋に入らなかった」「イメージと違った」という返品リスクを大幅に削減し、購入決断を後押ししています。

AR used in real estate
出典:WE/AR Studio - 実際の空間に家具や情報を配置するAR活用例

5. 結論:あなたの現場にはどちらが「正解」か?

「VRとAR、どちらが優れているか」という問いに絶対的な正解はありません。正解は「何を、誰に、どう売りたいか」によって決まります。以下のフローチャートを参考に、自社の状況に当てはめてみてください。

選定のためのチェックリスト

Q1. 提案したい商材は、商談の場に持ち込めますか?

  • はい、持ち込めます(または顧客がショールームに来ます) → Q2へ
  • いいえ、大きすぎる/遠すぎる/まだ存在しません → VRヘッドセットがおすすめ

Q2. 商材の魅力はどこにありますか?

  • 内部構造、付加情報、カスタマイズのバリエーションを見せたい → ARグラスがおすすめ
  • 使用している世界観、ストーリー、没入体験そのものを見せたい → VRヘッドセットがおすすめ

Q3. 商談スタイルはどのようなものですか?

  • じっくりと対話しながら信頼関係を構築したい → ARグラス(対話を阻害しない)
  • 短時間で強烈なインパクトを残したい → VRヘッドセット(体験の深さ重視)

6. 今後の展望とまとめ

技術の進化は止まりません。現在では、VRヘッドセットにカメラを搭載して外部の映像を取り込み、ARのような体験を可能にする「MR(Mixed Reality:複合現実)」デバイスも登場しています(例:Apple Vision ProやMeta Quest 3など)。これにより、VRとARの境界線は徐々に曖昧になりつつあります。

しかし、現時点での営業現場への導入を考えるならば、まずは目的を明確にすることが先決です。

  • 顧客を「ここではないどこか」へ連れて行きたいならVR
  • 顧客の「いま目の前にある現実」をより良く見せたいならAR

この原則を忘れなければ、ツール選びで失敗することはありません。最新のデバイスはあくまで手段です。大切なのは、それを使って顧客にどのような「驚き」と「納得」を提供できるかです。まずはスモールスタートで、タブレットを使ったARや、簡易的なVRゴーグルから試してみるのも良いでしょう。デジタルの力を借りて、営業活動を次なる次元へと進化させてください。

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