MR(複合現実)とは何か? AR/VRとの違いと営業シーンでの使い分け

投稿日: 2026年2月14日

1. イントロダクション

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に伴い、ビジネスシーンにおいて「XR(クロスリアリティ)」と呼ばれる技術群の活用が進んでいます。XRとは、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、そしてMR(複合現実)の総称です。

これまでの営業活動では、紙のカタログやパワーポイント、あるいはWeb会議システムを通じた2次元的な画面共有が主流でした。しかし、製品の複雑化やリモートワークの普及により、「実物を見ないと分からない」「現場でのイメージが湧かない」といった課題が顕在化しています。

そこで注目されているのが、現実世界とデジタル情報を高度に融合させる「MR(複合現実)」技術です。本記事では、MRの定義やAR/VRとの決定的な違い、そして実際の営業現場においてどのように使い分けるべきかについて、具体的な活用事例を交えて解説します。

2. MR(Mixed Reality)とは何か?

MR(Mixed Reality:複合現実)とは、現実世界と仮想世界をリアルタイムに融合させ、相互に作用させる技術のことです。

単にデジタル映像を見るだけでなく、現実の空間認識(壁や床、机の位置など)を行い、その空間上にデジタルコンテンツ(ホログラムなど)を固定して表示します。これにより、ユーザーはデジタル物体があたかも現実空間に存在しているかのように感じ、さらに自分の手で操作したり、後ろに回り込んで確認したりすることが可能になります。

例えば、何もない会議室の机の上に、新製品の3Dモデルを実物大で出現させ、参加者全員がそれぞれの角度からその製品を眺め、部品を分解して内部構造を確認するといった体験が可能になります。

MR技術の概念図
図1:MR(複合現実)の概念図 - 現実空間にデジタル情報が融合している様子 (出典: Augray)

3. AR、VR、MRの違い

「XR」という言葉で一括りにされがちですが、AR、VR、MRには明確な違いがあります。それぞれの特性を理解することが、ビジネス導入の第一歩です。

AR/VR/MRの比較図
図2:VR、AR、MRの包括的な比較図 (出典: Applied Art & Technology)

3.1 定義の比較

項目VR (Virtual Reality)AR (Augmented Reality)MR (Mixed Reality)
日本語訳仮想現実拡張現実複合現実
体験の内容100%デジタルの世界に没入する。現実は見えなくなる。現実世界にデジタル情報を「重ねて」表示する。現実世界とデジタル情報が「融合」し、相互作用する。
空間認識なし(仮想空間のみ)弱い(マーカーや平面認識程度)強い(壁、床、物体の形状を認識)
主なデバイスMeta Quest, HTC VIVEスマートフォン, スマートグラスMicrosoft HoloLens, Magic Leap
操作性コントローラー操作が主タップ操作が主ハンドジェスチャー、視線入力

VRは「現実からの遮断」、ARは「現実への情報の付加」、MRは「現実と仮想の融合・共存」と言い換えることができます。特にMRは、デジタル物体が現実の物理法則(手前にあるもので隠れる、机の上に置けるなど)に従って振る舞う点が大きな特徴です。

4. MRの技術的な仕組み

MRを実現するためには、高度なセンサー技術と処理能力が必要です。代表的な技術要素には以下のようなものがあります。

  • SLAM (Simultaneous Localization and Mapping): 自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術です。デバイスが今部屋のどこにいて、どこを向いているかを常に計算します。
  • 空間マッピング (Spatial Mapping): カメラと深度センサーを使って、部屋の形状(壁、床、家具など)を3Dデータとして認識します。これにより、デジタルキャラクターがソファに座ったり、壁の裏に隠れたりすることが可能になります。
  • ハンドトラッキング・アイトラッキング: ユーザーの手の動きや視線の動きを検知し、コントローラーを使わずに直感的な操作(つまむ、押すなど)を実現します。

5. 営業シーンでの使い分け

営業活動において、どの技術を採用すべきかは「何を」「誰に」「どこで」伝えたいかによって異なります。それぞれの技術に適したシーンを整理します。

営業シーンでのMR活用
図3:営業プロセスにおけるMRの役割 (出典: SlideTeam)

ARが適しているシーン

スマートフォンやタブレットで手軽に体験できるARは、B2C(一般消費者向け)や、簡易的なB2B営業に適しています。

  • 家具や家電の配置シミュレーション: 顧客の自宅に製品を置いたサイズ感を確認してもらう。
  • カタログとの連動: パンフレットのマーカーを読み込むと、製品紹介動画が再生される。

VRが適しているシーン

没入感が高いVRは、移動が困難な場所や、まだ存在しない空間の体験に適しています。

  • 不動産の内覧: 遠隔地の物件や建設前のマンションの室内を体験してもらう。
  • 工場見学・施設案内: 危険な場所やセキュリティエリアをバーチャルツアーで案内する。
  • トレーニング: 事故のリスクがある作業の安全教育を行う。

MRが適しているシーン

現実空間との整合性が重要なMRは、複雑なB2B商材の提案や、現場での共同作業に適しています。

  • 大型産業機械の設置シミュレーション: 実際の工場内に等身大の機械を表示し、配管や動線に干渉しないかを確認する。
  • 医療機器のデモンストレーション: 実際の手術室やモデル人形に対して、機器の操作方法や体内の見え方を重ねて説明する。
  • デザインレビュー: 試作品を作る前に、実寸大の3Dモデルを複数人で囲み、修正箇所を指摘し合う。

6. MRの営業活用事例

ここでは、具体的にMRがどのように営業現場を変革しているか、いくつかの事例を紹介します。

HoloLensビジネス活用
図4:Microsoft HoloLens 2を活用した没入型コラボレーションの様子 (出典: Microsoft Source)

事例1:製造業における大型機械の商談

ある工作機械メーカーでは、従来、数トンもある機械を展示会に輸送するために多額のコストをかけていました。MRデバイス(HoloLens 2など)を導入することで、何もない会議室に実寸大の機械を出現させることができるようになりました。顧客はゴーグルを装着するだけで、機械の内部構造や動作のアニメーションを確認でき、「導入後のイメージが明確になった」として成約率が向上しました。

事例2:建設・建築現場での完成イメージ共有

建設会社では、更地の状態で施主に対して完成後の建物をMRで提示しています。図面だけでは伝わりにくい天井の高さや窓からの採光、コンセントの位置などを、実際にその場を歩き回りながら確認できます。これにより、着工後の「言った言わない」のトラブルを未然に防ぎ、顧客満足度を高めることに成功しています。

事例3:遠隔営業支援(リモートセールス)

熟練の営業担当者が本社にいながら、地方の若手営業担当者や顧客を支援するケースです。現地の担当者が装着したMRデバイスのカメラ映像を本社で共有し、本社のエキスパートが「ここのネジを見てください」と指示を出すと、現地の担当者の視界に矢印や注釈が表示されます。これにより、高度な専門知識が必要な商談でも、移動コストをかけずに対応が可能になりました。

7. 導入のメリットとデメリット

メリット

  • 理解度の向上: 複雑な構造や目に見えない気流・熱などを可視化することで、顧客の理解スピードが劇的に向上します。
  • コスト削減: 実機の輸送費や、営業担当者の移動時間・交通費を削減できます。
  • 「Wow」体験の提供: 先進的な技術を活用することで、顧客に強いインパクトを与え、企業ブランドの革新性をアピールできます。
  • 意思決定の迅速化: 懸念事項をその場で視覚的に解決できるため、検討期間の短縮につながります。

デメリット

  • 導入コスト: 高性能なMRヘッドセット(1台数十万円〜)や、3Dコンテンツの制作費用が必要です。
  • デバイスの装着負担: ヘッドセットは依然として重量があり、長時間の使用は疲労を伴う場合があります。また、装着することへの心理的抵抗感を持つ顧客もいます。
  • 視野角の制限: 技術は進歩していますが、人間の自然な視野全体をカバーできるデバイスはまだ少なく、表示領域に制限があります。

8. まとめと今後の展望

MR(複合現実)は、単なる「新しい見せ方」にとどまらず、現実空間とデジタル情報を融合させることで、顧客とのコミュニケーションの質を根本から変える力を持っています。ARの手軽さとVRの没入感を兼ね備えつつ、現実空間での対話を阻害しないMRは、特に高額商材や複雑なソリューションを扱うB2B営業において強力な武器となります。

現在はデバイスの価格やサイズが課題となることもありますが、Apple Vision ProやMeta Quest 3のようなパススルー機能(カメラを通じて現実を見る機能)を持った新型デバイスの登場により、MR体験のハードルは下がりつつあります。

今後の営業活動においては、対面での商談とデジタル技術を組み合わせた「ハイブリッドな提案力」が求められます。競合他社に先駆けてMR活用を検討することは、次世代のビジネスチャンスを掴むための重要な一歩となるでしょう。

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